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岡山地方裁判所 昭和56年(ワ)89号 判決

原告

安田克美

被告

寺山繁

主文

一  被告は、原告に対し金一七六、九一二円、および内金一五六、九一二円に対する昭和五五年五月六日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項について、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

1  被告は、原告に対し金五五八、三二〇円、およびこれに対する昭和五五年五月六日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  予備的に、担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二主張

一  原告の請求原因

1  本件交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和五五年五月五日午前九時二五分頃

発生場所 岡山市中畦三二七番地先県道上

加害車両 普通貨物自動車(岡四四ほ一二六九)

加害者 被告

被害車両 普通乗用自動車(岡五六る六三六二)

被害者 原告

(二) 原告は、幅員片側約四メートルの道路を北進し、幅員約五メートルの道路と直角にまじわる交差点にさしかかり、右交差点を右折して東進すべく、右折の合図をして徐行しながら右交差点に進入し、交差点中心の東側を通つて右折を開始した際、被告は、西側道路から東進し、交差点手前の一時停止線で停止せずそのまま交差点に進入し、右折態勢に入つている原告の被害車両左前部フエンダー部分、運転席左ドア部分に加害車両の右前部を衝突させた。

2  責任

被告は、交差点に進入するにあたり、一時停止のうえ安全確認すべき義務を怠り、かつ交差点南側道路から進入右折している被害車両の動静確認を怠つて進行した過失により本件事故を発生させたもので、民法七〇九条による損害賠償責任がある。

3  損害

(一) 修理費用 五五八、三二〇円

原告所有の被害車両は、右事故により、エンジンウオーターポンプ、サーモスタツトブラケツト、ラジエーター、ラジエーターリザーブタンク等を破損し、その修理費用として右金額を要した。

(二) 慰藉料 三〇〇、〇〇〇円

原告は、右事故により傷害を負い、ウチダ病院、倉敷広済病院で合計四五日間の入院加療を受けた。その間の原告の精神的損害は、少くとも右金額に相当する。

4  損害のてん補

原告は、右慰藉料につき、自賠責保険金として一二六、〇〇〇円の支払を受けた。

5  弁護士費用 八〇、〇〇〇円

原告は、前記3、4の差引合計損害額七三二、三二〇円の支払を得べきところ、被告が任意に支払わないため弁護士に訴訟委任し、本訴を提起した。その弁護士費用のうち八〇、〇〇〇円は本件事故と相当因果関係のある損害である。

6  よつて原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として、前記3ないし5の損害金合計八一二、三二〇円の内金五五八、三二〇円、およびこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五五年五月六日より支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因事実に対する被告の認否

1(一)  請求原因1、(一)の事実のうち、被告を加害者、原告を被害者とする点を否認し、その余の事実は認める。

(二)  同1、(二)の事実中、原告が本件交差点の南側道路から北進し、右折のためその合図をしながら本件交差点に進入したこと、被告がその西側道路から東進し、本件交差点に進入したことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告は、本件交差点手前の一時停止線で一旦停車し、北進右折する二台のダンプを待つて本件交差点内に進入したところ、原告の車両が右折の合図をして交差点に進入してきたため、交差点内で一時停止し、原告車の右折通過を待つていたところ、原告は、右折通過をなさず直進して被告車両の右側前部に衝突したものである。

2  同2の事実は否認する。

本件事故は、原告の一方的過失によるものである。

3  同3、(一)、(二)の各事実は不知。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実は争う。

6  同6項は争う。

三  被告の抗弁

1  仮に被告にも過失があるとしても、本件事故の態様は前記二、1、(二)のとおりであり、原告には、前方不注視、交差点内における徐行義務違反の各過失があるから、損害の算定において過失相殺すべきである。

2(一)  被告は、本件交通事故により、被告所有の車両の右フエンダー、右ドア等を破損し、その修理費用として一七六、三四〇円を要した。

(二)  本件事故は、原告の前記過失により生じたものであるから、原告は被告に対し右金額の損害賠償義務がある。

(三)  被告は、原告に対し、昭和五六年九月二一日の本件口頭弁論期日において、右損害賠償請求権をもつて、原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

3  原告は、自賠責保険金として三五〇、〇〇〇円(請求原因4の一二六、〇〇〇円を含む。)を受領しているから、原告主張額よりさらに二二四、〇〇〇円の損益相殺をなすべきである。

四  抗弁事実に対する原告の認否

いずれも争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1、(一)の事実は、原告と被告のいずれが加害者であり、被害者であるかとの点を除き、当事者間に争いがない。

二  そこでまず、本件事故の態様について判断する。

1  原告は、本件事故現場の交差点に、南側道路から北進し、右折のためその合図をしながら進入したこと、被告は、その西側道路から東進し、右交差点に進入したこと、以上の各事実については当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実と、原本の存在とその成立に争いのない甲第五、六号証、同第七号証の一ないし四、同第八号証、証人竹内祥司の証言、原告および被告の各本人尋問の結果を総合すると、次の各事実が認められる。

(一)  本件事故現場の交差点は、南側の有効幅員八メートル(中央線ないし中央分離帯により区分された片側車線幅員は八メートル)の舗装道路と、西側および東側の東西に通じる有効幅員五メートルの舗装道路がほぼ直角に交わるとともに、北側の、やや北東にのびる幅員四、五メートルの非舗装道路が交わる、変形の十字路交差点で、信号機の設置はなく、南側道路から東側道路の通行量(あるいはその逆の通行量)が多いためか、南側道路から東側道路へ右折する車線についてはその進行方向を指示する破線が交差点内に表示されているとともに、右車線の西側に菱形のマークと各方向からの右折する車両の進行方向を示す矢印の表示があり、右折車両の右折方法が指示されている。また、交差点の東側および西側道路には、その交差点入口近くに一時停止の標識が設置され、一時停止線が表示されている。南側道路と東側道路とは、交差点角付近が用水となつているため、互いに見通しはよい。

(二)  原告は、被害車両を運転して、右交差点南側道路を時速五〇キロメートル前後で北進し、交差点手前で減速し、右折の合図をするとともに、西側道路から右折して南下する車や、東側道路から左折して南下する車の動静を窺うためさらに減速し、時速約二〇キロメートル位の速度で交差点に入り、破線に沿つて大廻りに右折態勢をとりつつさらに徐行し、右南下車をやりすごした後右折に入るべく加速進行した際、自車左前部を、被告の運転する加害車両の右前側部に衝突させた。

(三)  被告は、加害車両を運転して、右交差点西側道路を東進し、交差点手前の一時停止線で一旦停止した後、さらに発進し、自車前部を前記菱形マークを越える位置まで進出させ、大廻りに右折進行してきた原告の運転する被害車両と衝突した。

被告本人尋問の結果中、本件衝突時、加害車両は停止中であつたとの供述は事故の前後の状況からみてやや不自然であるからたやすく措信できないし、原告および被告の各本人尋問の結果中、右認定事実以外の状況については、右各供述のみでただちに認めうるものではない。

三  右認定事実に基づき、被告の過失ならびに原告の過失による過失相殺について判断する。

1  被告は、一時停止線で一旦停止したものの、右折車があることを認識しながら交差点に進入しているが、一時停止の目的が安全確認のためであり、特に一時停止が指示されていない道路から交差点に進入する車両に対しては停止したまま安全確認を厳にしなければならないのに、慢然と交差点に進入し、しかも、各道路からの右折進行の中心点となるべき菱形マークを越える位置まで自車を進出させたことにより、本件事故の危険を惹起せしめた。被告の右行為には、交差点における車両の安全運転の義務に違反する過失があることは明らかである。

2  一方原告は、東、西道路からの左、右折して南下する車両の動向に気を奪われ、西側道路から引き続き本件交差点に進入し、直進しようとしていた被告の車両に全く気付かず、大廻わりして右折しようとしたため被告車両の右前側部に衝突しているもので、左前方不注視の重大な過失があることも明白である。

3  そうであれば、被告は、本件事故について、自己の過失に基づきその損害につき賠償責任をまぬがれることはできないものの、本件事故の態様と双方の過失を斟酌すれば、原告の過失が本件事故のより直接的原因であると認められるところから、その六割五分の過失相殺を認め、発生した損害の三割五分の範囲において賠償すれば足りるというべきである。

四  そこで、原告に生じた損害について検討する。

1  原告本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したことが認められる甲第四号証によれば、原告は、本件事故により、自己所有の被害車両が大破し、その修理費用として五五八、三二〇円を要したことが認められ、これに反する証拠はない。

2  成立に争いのない甲第二、三号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により、頭部、左肩、頸部、腰部の各打撲および左下腿擦過傷の傷害を負い、昭和五五年五月五日より同月二四日まではウチダ病院で入院加療をうけ、同日より同年六月一八日までは倉敷広済病院で入院加療をうけたこと、および退院後一週間位は自宅療養を余儀なくされたことが認められ、右加療中、原告は、多大な精神的苦痛を蒙つたことが認められる。右苦痛を慰藉する金額としては、金二五〇、〇〇〇円をもつてするのが相当である。

3  よつて原告は、合計八〇八、三二〇円の損害を蒙つているところ、前示過失相殺により、その三割五分にあたる二八二、九一二円が被告に賠償を求めることができる損害額である。

4  原告が、本件事故による損害について、自賠責保険より金一二六、〇〇〇円の支払をうけ、この損害てん補を受けていることについては当事者間に争いがない。この損益相殺によれば、原告の残損害額は一五六、九一二円である。被告は、原告が支払を受けた自賠責保険金は三五〇、〇〇〇円である旨主張するが、これを認めるべき証拠はない。

五  ところで被告は、本件事故により、自己所有の加害車両の修理費として一七六、三四〇円を要したので、この損害賠償請求権をもつて原告の本訴請求債権と対当額において相殺する旨主張する。しかしながら、原告の本訴請求債権は被告の不法行為に因つて生じたものであるから、民法五〇九条に定めるとおり、被告はこれに相殺をもつて対抗することができず、被告に生じた損害については前示過失相殺によりその六割五分にあたる金額について原告に損害賠償をなしうるとしても、右主張はそれ自体失当である。

六  よつて原告は、被告に対し一五六、九一二円の損害賠償を求めうるが、被告がこれに任意に応じなかつたことにより、弁護士に訴訟委任して本訴を提起せざるを得なかつたことは弁論の全趣旨により明らかである。右弁護士費用のうち二〇、〇〇〇円は被告に負担させるのが相当である。

七  以上のとおりであるから、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として前示四、六の損害金合計一七六、九一二円、および右のうち弁護士費用を除く一五六、九一二円に対する本件事故発生の翌日である昭和五五年五月六日より支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

よつて、原告の本訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大内捷司)

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